AIMを用いたアジアにおける脱炭素社会実現に向けたシナリオ開発

AIM(Asia-Pacific Integrated Model)チーム

アジア諸国における脱炭素社会の実現に貢献するAIM

国立環境研究所、京都大学を中心としたAIMチームでは、環境研究総合推進費S-6(アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究;2009-2013年度)を中心に、アジアの研究者や行政関係者と協力して、AIMをアジアに適用し、図1に示すような各国の低炭素シナリオ開発を行ってきました(S-6 アジア低炭素社会研究プロジェクト:https://2050.nies.go.jp/s6/index_j.html)。

図1 アジアにおける低炭素シナリオ開発

パリ協定で合意された2℃目標や1.5℃目標を達成するためには、国内における脱炭素社会の実現に向けた取り組みをすすめるとともに、発展途上国における支援を行うことが必要です。2021年10月22日に閣議決定された地球温暖化対策計画では、「相手国への政策への関与を強化し、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)による長期戦略策定支援、NDC 改訂支援、民間企業の制度構築及び実施能力向上を支援し、相手国の野心の向上や脱炭素に向けた取組の強化に貢献する。」と明記されています(「第8章 海外における温室効果ガスの排出削減等の推進と国際的連携の確保、国際協力の推進」の「2.我が国の貢献による海外における削減」の「(1)相手国の政策・制度構築」)。

AIMチームでは、これまでに行ってきたアジア各国との低炭素社会実現に向けた共同研究を更に深め、脱炭素社会の実現に向けたNDCの評価や温室効果ガス排出量の正味ゼロを実現する長期戦略の分析を行うアジアの研究者を支援してきました。これらの分析では、AIMで開発している様々なモデルのうち、図2に示すExSS、Enduse、CGEの3つのモデルを主に活用しています。

図2 脱炭素社会(DeCarbonized Society)の実現に向けた
行動・施策を分析、評価するためのモデル群とその役割

こうした一連の取り組みは、図3に示すようなコンセプトのもとで、各国における人材育成と連携して行い、計算結果等はLoCARNet(低炭素アジア研究ネットワーク;https://lcs-rnet.org/topics-top)を通じて政策決定者と議論され、各国の脱炭素社会の実現に貢献しています。

図3 AIMの活動を通じた支援の枠組み

脱炭素行動・施策を分析・評価するモデル(1):【Extended SnapShot Tool(拡張型スナップショットツール;ExSS)】

ExSSの概要は図4の通りです。産業連関表やエネルギーバランス表をもとに、将来の社会経済活動に関するシナリオや導入される対策技術を踏まえて、対象年における温室効果ガス排出量を推計するツールです。図1に示したシナリオの多くは、本ツールを用いて定量化されており、アジアの国(https://2050.nies.go.jp/LCS/jpn/asia.html)や都市(https://2050.nies.go.jp/LCS/jpn/asia_city.html)など様々な地域に適用されています。図4では、エネルギーを中心とした構造が示されていますが、農業土地利用や廃棄物などエネルギー以外の温室効果ガス排出量を評価するモジュールを加えることで、これらの分析も可能となります。ExSSは対話型のツールとして、比較的シンプルな構造で、計算時間もかからないように設計されており、目標年次における社会構造や排出削減目標を達成するために必要な技術の組み合わせの概要を共有し、対象地域における将来ビジョンを描写することに用いられています。

図4 ExSS(拡張型スナップショットツール)の概要

脱炭素行動・施策を分析・評価するモデル(2):【技術選択モデル(AIM/Enduse)】

AIM/Enduseモデルの概要は図5の通りです。このモデルではExSSで示されたビジョンを技術普及の面からどのように達成するかを定量的に明らかにします。脱炭素に資する技術(省エネ技術や再エネ技術)をデータベースとして準備し、将来の人口や経済成長等をもとに想定したエネルギーサービス需要量(旅客や貨物の輸送量や鉄鋼生産量、冷暖房の需要など)を前提に、それらを制約条件として固定費用の年価と運転費用の合計が最小となるように、毎年の技術の普及とエネルギー消費量を計算するモデルで、エネルギー消費量等から温室効果ガス排出量が計算されます。計算は、基準年を出発点に目標年まで1年毎に計算されます。日本における脱炭素シナリオ分析においてもこのモデルが用いられています。

図5 AIM/Enduse(技術選択モデル)の概要

脱炭素行動・施策を分析・評価するモデル(3):【応用一般均衡モデル(AIM/CGE)】

AIM/CGEの概要を図6に示します。AIM/CGEでは、価格メカニズムを用いて対象とするすべての市場において需要と供給が均衡するように、価格や生産、投入といった変数が計算されるモデルです。このモデルに、炭素価格や温室効果ガス排出量を組み入れ、排出量に上限を設定したり、カーボンプライシング導入による効果を分析しています。前述のAIM/Enduseから計算される技術情報(省エネ機器の導入やそのために必要な追加投資額)を反映させて計算することが可能であるとともに、将来のエネルギーサービス需要の変化をAIM/Enduseに提供することも可能です。

図6 AIM/CGE(応用一般均衡モデル)の概要

アジアでのNDCや長期戦略策定におけるAIMの使用例(1):タイ

これまでにタイやインドネシアにおいて長期戦略の策定においてAIMが利用され、ベトナムでは脱炭素シナリオの定量化に向けて情報提供を行っています。

タイにおいては、タマサート大学シリントーン国際工学部のProf. Bundit Limmeechokchaiが、AIMを用いた定量分析の結果を政府に提供し、そうした結果が第3回国別報告書や長期戦略(それぞれ2018年8月及び2021年11月、2022年11月に国連条約事務局へ提出)において活用されてきました。

https://unfccc.int/documents/181765
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/Thailand_LTS1.pdf
https://unfccc.int/sites/default/files/resource/
Thailand LT-LEDS (Revised Version)_08Nov2022.pdf

アジアでのNDCや長期戦略策定におけるAIMの使用例(2):インドネシア

インドネシアにおいては、ボゴール農業大学のProf. Rizaldi Boerやバンドン工科大学のProf. Retno Gumilang Dewi、Dr. Ucok WR. Siagianが中心となってAIMを用いた定量分析の結果をインドネシア政府やボゴール市当局に提供し、そうした結果が同国の長期戦略(2021年8月提出に条約事務局へ提出)やボゴール市の都市計画において活用されてきました。

https://unfccc.int/sites/default/files/resource/Indonesia_LTS-LCCR_2021.pdf

アジアでのNDCや長期戦略策定におけるAIMの使用例(3):ベトナム

ベトナムに対しては、2020年8月に日本の環境省とベトナムの天然資源環境省の間で締結された覚書を通じて、AIMチームがベトナムのISPONRE(自然資源環境戦略政策研究所)等と連携して、ベトナムにおける脱炭素シナリオの定量化を支援しています。

https://www.env.go.jp/press/files/jp/114598.pdf
https://www.env.go.jp/press/files/jp/117125.pdf

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